世は万華鏡(45)

Date:2017年02月20日13時01分 | Category:世は万華鏡 | Writer:ぐらんざ編集部

しもやけとあかぎれ

 小学生のころの私はしもやけがひどい子供だった。手や足が熟れた柿のように腫れあがる。かゆくて、かゆくて…。ひび割れも出来て膿が出る。見るも無残な状態だった。「冬が来なければいいのに…」。何度そう思ったことだろう。

 旧福岡県黒木町の小学校で過ごした冬のある朝。登校した私が両手に包帯を幾重にも巻いているのを見た担任の女性教師が「痛いでしょうね」と呟きながら、包帯の上から両手を繰り返し撫でてくれた。
 成長するにつれてしもやけはなくなったが、あのときの先生の手の感触は67歳の今も消えずに残っている。

 皮膚病の話ばかりで恐縮だが、30代後半から40代にかけては掌蹠膿疱症というやっかいな病に悩まされた。膿がたまった皮疹が、手の平や足の裏に次々に出来る。とてもかゆいので我慢できずに膿疱をつぶすと、つぶした跡がただれて惨憺たる有様になるのが常だった。
 この病気もいつとはなしに自然治癒したが、治療の過程で子供に多発する難病の表皮水疱症のことを知った。

 皮膚の層をつなぎとめるタンパクが出生時から欠けているため、皮膚がはがれやすく、水疱やびらんができる。何かにぶつかったり、寝返りしただけでもむけてしまう。爪や歯にも変形や欠損が起き、痛みがあるため、歩行や食事にも困難が伴う、という。
 ところが、最近読んだ月刊誌『生命尊重ニュース〜小さな生命を守るために』で、ある皮膚科医が表皮水疱症の子供は、例外なく情緒が安定し、優しいという話を紹介していた。その一番の理由として、医師はスキンシップを挙げていた。

 親たちは日に何度も子供の皮膚に丁寧に薬を塗る。子供はこのスキンシップを頻繁に受けることで、親の愛情を感じるのだという。
 スキンシップそのものに病気を治す力はないだろうが、子供の気持ちを穏やかにさせ、「ずっとそばにいるよ」「一緒に頑張ろうね」のメッセージを与えてくれる。私の手を撫でてくれた先生も、そんなメッセージを伝えてくれたのだと、今にして思う。

 しもやけに苦しんだ私と同じように、母はあかぎれが痛々しかった。しもやけとあかぎれに母と息子の遺伝体質が関わっているかどうかは分からないが、私は母のDNAを心身ともに濃く受け継いでいる気がしてならない。

 あかぎれの手で水仕事をしていたその母が逝って早や七年。この季節になると、しもやけとあかぎれを、あの先生そして母の面影とともに思い出す。

(ジャーナリスト。元西日本新聞記者)



馬場周一郎=文
幸尾螢水=イラスト