東京通信15 江戸歌舞伎を堪能

Date:2017年04月20日13時01分 | Category:東京通信 | Writer:小川祥平


江戸歌舞伎を堪能

 東京観光の定番コースに組み入れられるのが銀座にある歌舞伎座だ。四年前に改築された華やかな建物の前にはいつも記念撮影をする人たちの姿がある。とはいえ建物の見物だけで終わりという人も多いはず。今回は、連日の大入りとなっている公演を紹介する。

 公演は月替りで、昼、夜の部に分かれている。観劇したのは「三月大歌舞伎」の夜の部。開演前に到着すると建物付近は入場待ちの人でごった返していた。見渡してみると、年齢層は五十〜七十歳代が多い。「公演時間が長く、チケットもそれなりの価格ですから」。歌舞伎座の広報担当者はそう説明してくれた。チケットは一階、二階や桟敷席で一万四千円〜二万円。三階席は四千〜六千円。昼、夜ともに約四時間公演という長丁場だが、逆に歌舞伎の世界にどっぷりと浸れるのも魅力かもしれない。

 歌舞伎は敷居が高い。そう思われている人も多いだろう。確かに、セリフは現代口語とは違うし、古典語も混じる。江戸やそれ以前の話であり、その時代の文化・風俗の知識もいる。私自身、過去数回歌舞伎座で観劇した程度の初心者で、内容をつかめないことも多かった。そこで今回は「イヤフォンガイド」(七百円)なるものを借りてみた。人の説明を聞きながら芸術鑑賞をすることは無粋と思って避けていたが、使ってみるとこれが意外に良かった。

 演目は、人を殺めた人気力士、長五郎を逃がす郷代官の十次兵衛(松本幸四郎)ら家族の心情を描いた「引窓」、石川五右衛門を女性にして書き換えた坂田藤十郎主演の「けいせい浜真砂」、歌舞伎十八番の中でも人気が高い演目で、吉原を舞台に市川海老蔵が色男の助六を演じる「助六由縁江戸桜」の三作品。ガイドでは、物語の歴史や要所でのあらすじ、伏線めいたものも教えてくれる。わかりにくい言葉は言い換えてくれるし、役者の名前や屋号、見得を切るタイミング、衣装、小道具の説明もしてくれる。

 歌舞伎の持つ様式美の一端が分かった気になって楽しい。また解説者は同じ舞台を見て実況していて、ライブ感があるし、話のタイミングもいい。笑いもちりばめられていて、客席のところどころから笑い声が上がったシーンもあった。

 役者では海老蔵が際立っていた。豪華絢爛な衣装をまとった傾城(遊女)、揚巻のゆったりとした動きに対し、花道を「丹前六方」で粋に歩く海老蔵の姿は対照的でキレがある。十七年前に初めて助六を演じた海老蔵は「今は教わったことをこなすだけでなく、何もせず助六になれるよう醸し出すことが大事」(公演プログラムより)と言う。ついイヤフォンガイドの存在を忘れて見入っていた。

 「四時間は長い」、「もっと手頃な値段で」。そんな要望に応える席もある。四階に位置する「一幕見席」は、千円程度で好きな演目だけ見られる席だ。銀座観光がてら、趣きある建物で江戸歌舞伎を体感するのもいいかもしれない。


明治二十二年に開場した歌舞伎座。現在の建物は5代目となる

文・写真 小川祥平
1977年生まれ。西日本新聞東京支社で文化担当記者として勤務。日本酒とラーメンを愛する。