世は万華鏡 (53)

Date:2017年10月20日13時01分 | Category:世は万華鏡 | Writer:ぐらんざ編集部

「夫婦の楽園」はどこにある

 長いお付き合いをしている福岡市南区長住の井上さんご夫妻(60代前半)が、飛騨高山への移住計画を進めている。「転勤族ではなかったので、一度は博多からよその土地へ行って別の環境で暮らしてみたいとずっと思っていたのです」と奥様。

 そんな今年八月、娘さん夫婦が飛騨高山に転勤し、暮れには第二子が誕生する。加えてご主人が来年春には第二の職場を定年退職。そんな条件が重なって長年の思いを実行に移す決断をしたという。当面は長住の自宅を残したままの二地域居住だ。

 飛騨高山に移住したら、二人の共通趣味である野菜作りに汗を流し、さらに洋服づくりでプロ級の腕を誇る奥様が地域の方々を対象にリフォーム教室など開ければ言うことなし、と夢は膨らむ。まさに『人生の楽園』(テレビ朝日系・土曜午後六時)に登場する中高年夫婦そのものである。
 夫がリタイアした後の二人暮らしは難しい。最近手にした『ふたり老後もこれで幸せ』(辻川覚志/水曜社)に、「夫婦のみの家庭では妻の満足度が圧倒的に低く、悩みも多い」と書いてあった。具体的な不満が添えてあるので紹介しよう。

 「トイレに立とうとしたらどこに行くのか、と尋ねる。なぜ夫にそんなことまで報告しなければいけないのか」「テレビばかり観て話し掛けても返事もしない」「朝ご飯を済ませて外出しようとしたら、昼飯はどうなっているのかと尋ねる」などだ。

 一方では、二人暮らしがとても快適との回答もあった。「75歳の夫は家事を全くしない。それでも百点満点の満足度だ。会話が多く、気が合っているので何をするにも夫と一緒に行動している」「夫は家事もやってくれるが、私が出掛けても何も言わないのが有り難い。夫に感謝している」
 本の筆者は夫婦関係の満足度が高いか低いかは、二人の意思疎通がうまくいっているかどうかによる、と結論づける。二人の間に垣根がなく、大小様々な会話が交わされていれば、夫が家事を手伝うかどうかは妻にとってさしたる意味を持たないとさえ言う。

 あらためて「人生の楽園」ならぬ「夫婦の楽園」とは何だろう、と考える。結局のところ、それは二人でいることが苦にならない適度な距離、つまり相手を思いやる気持ちがあれば十分に「楽園」足り得るのだろう。

 飛騨高山に「夫婦の楽園」をつくろうとする井上さんご夫妻。新たなる旅路に、少年と少女のような初々しい冒険の日々を願う。

(ジャーナリスト。元西日本新聞記者)



馬場周一郎=文
幸尾螢水=イラスト