長谷川法世のはかた宣言97・たのごい

長谷川法世のはかた宣言97・たのごい


 前回『御堂関白記(みどうかんぱくき)』※1には「標山」がないと書いたけど中巻254頁にあった。付箋紙も張っていた。「大内裏(だいだいり)の北野の大嘗宮(だいじょうきゅう)の標山を検分した…」。ここでは「しめやま」とルビがふってある。いろんな読み※2があるなあ。

 さて、94回「てのごい」の件、『日葡辞書(にっぽじしょ)※3』には、てのごい(手拭)が見出し語になっているそうだが、いまの辞書にもてのごい、また「たのごい」の見出しがある。ニッポニカ※4では、てぬぐいの項に「…古くは手巾と書き、たなごひ・たのごひ・てのごひと読んだ。江戸時代中期に手拭と書き、てぬぐいというようになった…」と説明している。

 読みかたのひとつ「たのごい」が、『御堂関白記』にでている。「蔵頭(くらのかみ)(源(みなもとの))頼光(よりみつ)※5が手巾(たのごい)を奉(たてまつ)った」と寛仁(かんにん)二年(1018)正月二日の条にでている。手拭をたのごいとは聞きなれないけれど、天(あま)の岩戸(いわと)を開け放った天手力男命(あめのたぢからおのみこと)は、手をタと読む。博多松囃子の三福神は馬に乗って「手綱(たづな)」を取っていらっしゃる。西南戦争の歌「田原坂」の歌詞にも、「馬手(めて)(右手(めて))に血刀(ちがたな)、弓手(ゆんで)に手綱(たづな)」とでている。

 馬の字をメと読むのは、「駿馬」「神馬(しんめ)」がある。神馬はみんな「しんば」と読むけれど、神官さんは、「じんめ・しんめ」と読むそうだ。関白記のふり仮名はじんめ※6だ。

 ところで、『日欧文化比較(にちおうぶんかひかく)※7』は、「7-37われわれの間では馬で戦う。日本人は戦わなければならない時には、馬から降りる」と記している。また「8-28われわれの間では…(馬の)手綱を一方の手で持つ。日本では…両手でもつ」という。しかしそれでは「馬手に血刀、弓手に手綱、馬上ゆたかな美少年」の片手操作※8は虚構なんだろうか。

 天正13年(1585)の日欧文化比較から、美少年の参加した明治10年(1877)の西南戦争まで292年間。前に書いた、馬を尻から厩に入れる日本の方法を、1865年のシュリーマン※9も1877年のモース※10もめずらしそうに記録している。欧米で厩舎への馬の入れ方が日本風になるのは、早くともモースの報告の後だろう。かたや旧式な軍隊だったといわれる西郷軍でも美少年が片手で馬を乗りこなせるほどに、日本の西洋化は早かった、ということかもしれない。

 西南戦争というと政府軍は、有栖川宮熾仁親王(ありすがわのみやたるひとしんのう)※11を征討総督として博多港に上陸し、日銀横の勝立寺(しょうりゅうじ)を仮本営とした。熾仁親王は皇女和宮(かずのみや)※11との悲恋の主人公。博多からたどると、歴史が身近に感じられるなあ。

※1)御堂関白記…原著は漢文。引用は『藤原道長「御堂関白記」(みどうかんぱくき)』全現代語訳倉本一宏・講談社学術文庫。たのごいは下巻269頁
※2)いろんな読み…前回の紹介は、しるやま・しるしのやま・ひょうのやま
※3)日葡辞書…日本イエズス会が慶長8年(1603)刊行したポルトガル語の日本語辞書。日本語の見出しをポ式ローマ字で書いたもの。まだ持ってない。
※4)ニッポニカ…日本大百科全書の別名。小学館編。
※5)源頼光…平安中期の武将。藤原家と結び左馬権頭(さまのごんのかみ)となる。山笠の題材にもなる大江山酒呑童子退治の伝説などで有名(道長よりも?)。
※6)じんめ…全現代語訳本上巻289頁。寛弘4年2月2日「この何箇月か、憚(はばか)ることが有って、宗像社(むなかたしゃ)に神馬(じんめ)を奉らなかった。今日、神馬を奉納(ほうのう)した」。現在、宗像三神は京都御苑内の南から入ってすぐの杜に祀られている。
※7)日欧文化比較…天正13年宣教師フロイス著。引用は岩波文庫版『ヨーロッパ文化と日本文化』岡田章男訳注。数字は文庫での通し番号。
※8)片手操作…両手を離す騎射(のりゆみ)、流鏑馬・犬追物、また武田の騎馬隊もあった。
※9)1865年のシュリーマン…トロイの遺跡の発見者が来日した年。「シュリーマン旅行記‐清国・日本」講談社学術文庫。
※10)1877年のモース…大森貝塚発見者の著『日本その日その日』出版の年。講談社学術文庫。
※11)有栖川宮熾仁親王…有栖川宮九代。幕末の攘夷論者。
※12)皇女和宮…1851年熾仁親王(16歳)と6歳で婚約。58年以降井伊直弼らにより将軍家との婚儀が画策され、17歳62年将軍家茂に降嫁。

長谷川法世=絵・文
illustration/text:Hohsei Hasegawa

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