長谷川法世のはかた宣言88・バンコ

長谷川法世のはかた宣言88・バンコ


 博多では縁台のことを「バンコ」という。このバンコという言葉はポルトガル語だそうだ。こころみに電子辞書を引くと「広辞苑」にでていた。

  バンコ【banco(ポルトガル)】縁台。床几。腰掛け。

  また、「ひとり歩きのブラジル・ポルトガル語」というトラベル用辞書では、bancoバンコ=銀行・ベンチ、という説明だ。銀行とベンチがどうして同じことばなんだろうか。

  ちなみに「イタリア語自由自在」のイ和辞典では、banco=カウンター。逆に和イ辞典ではカウンター=banco。これはとうぜんとして、椅子はsediaセーディアであり、銀行はbancaバンカということで、椅子と銀行は別のことばになっている。

  ネットで探すと、コトバンクの「デジタル大辞泉」に、バンコ(ポルトガルbanco)=(九州地方で)腰掛け・ベンチ。さらに「世界大百科辞典」から【両替】という項目のバンコの部分が引用されている。

 「…彼らは広場に台を並べ、その上で貨幣の量目を計ったりした。このような台をイタリア語でバンコbancoと呼ぶが、これが銀行bankの語源※1である」。

  椅子は直接出てこないが、ポルトガル語のバンコが銀行・ベンチであるのと、イタリア語のbancoはカウンターという説明の意味がわかる。カウンター(台)で両替などをやるけれど、それには腰掛けが要るもんな。

  冒頭の「彼ら」というのはヘブライ人のこと。3月号でも紹介した『明治のことば※2』に、バンコが3か所でていて、ヘブライ人のことがかかれている。世界大百科の原資料だと思われるが、ここでは3つとも、バンコを腰掛け※3と訳している。

  3つのうち、一番短い明治7年(1874)の『為替座論』を紹介しよう。旧文体をいま風に意訳する。

 〈貿易でつかうバンク(為替座※4)という言葉は、貨幣を預かるという意味だ。古代イタリアでは貨幣をあつかう者はヘブライ人だ。景気のいい都会の市場で椅子に腰かけて(為替座業務を)行なうことから、イタリア語で椅子をさすバンコがなまってバンクとなったのである〉

  ネットで「ポルトガル語」を検索すると出てくるでてくる、ボタン・カボチャ・カッパ・カルタ・カステラなど、バンコ以外にもたくさん日本に帰化しているんだなあ。※5

※1)銀行bankの語源…これはおかしい。後出の「為替座論」もそうだが、イ語で銀行はバンコがなまったbancaバンカだ。そのイ語がなまって英語のbankバンクとなったのが順序だと思う。イ語bancaバンカを省略した英書をそのまま訳したか。
※2)明治のことば…斉藤毅著・講談社学術文庫、バンコ3か所は「第九章銀行:銀行訳語年表」内。同書は明治日本が西洋文明を理解するため、漢語の流用や和製で様々な訳語を考案した歴史の書。太平洋・アメリカ合衆国・社会・個人・会社・哲学・主義など、それまでなかった概念を新造日本語として固定化していった成立過程を史資料を博捜して紹介。80回「みそかのことわり」でも使った。銀行訳語年表は寛政8年から明治12年まで、江戸・明治の人々がバンクの訳語をさまざまに工夫した約30語とその出典の文章55点を12頁にわたって記したもの。
※3)腰掛け…原文では 木偏+登の下に几
※4)為替座…バンクの訳語。ここではまだ銀行という訳語がない。

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