世は万華鏡

世は万華鏡 (75)老後に本当はいくら必要か

老後に本当はいくら必要か

 西日本新聞の僚紙として昭和21年4月に創刊された夕刊フクニチ。その目玉として連載が始まったのが漫画「サザエさん」。余談だが、作者の長谷川町子さんは一時期、西日本新聞社に勤務していた。
 戦後間もないこのころ、巷で流行していた言葉が「竹の子生活」である。衣類や家財を売って生活費を工面する庶民の困窮した暮らしのこと。なけなしの物財を少しずつ処分していくさまが、竹の子の皮を一枚一枚剥いでいくのに重なり合うという訳だ。
 金融庁のいわゆる「老後2000万円」問題の報告書。2000万円ばかりが強調されるが、報告書を正確に引用すれば「夫65歳以上、妻60歳以上の夫婦のみの無職世帯では、毎月の不足額の平均は約5万円、これから20~30年の人生があるとすれば、不足額の総額は単純計算で1300万~2000万円なる」と書いてある。
 これに対し、「2000万円を自助努力で準備しろというのか」「貯金を取り崩さないと生きていけない」(令和の竹の子生活!)の批判が殺到した。しかし、報告書の数字自体は以前から言われてきたことで格別、目新しいものではない。
 個人的には現行の年金制度に不満は多々ある。しかし、年金の原資が働く世代からの賦課(仕送り)で成り立っている以上、年金で賄えない不足分を自助努力で補うのは当然だと思う。意欲と体力が許せば70歳まで働く、あるいは「長生きリスク」に備えて、年金の繰り下げ受給などの対応は個人レベルでも可能だろう。もちろん、自助が困難な人に手厚い公助があるべきなのは論を待たない。
 それにしてもなぜ老後資金が今日、これほど切実な問題になったのか。少子高齢化が一番の要因だが、それよりも家族形態の変化が大きいように私には思える。
 サザエさん一家は3世代同居。連載開始当時に圧倒的だった3世代同居は10%を切って、いまや少数派となった。その昔、老いた肉親を最後まで見守ってくれたのは家族であり、国家ではなかった。その家族がかたちを変え、親の長い老後をサポートできなくなった。
 老後に本当はいくら必要か。この問いに答えられる人はいない。人生いろいろ、老後もいろいろ、だからだ。だが、はっきりしているのは、おカネの計算だけで過ごす老いの日々では勿体ないということ。幸い日本は究極の冷血社会ではない。「必ず何とかなる」。老後には大いなる楽観主義もまた必要である。

 (ジャーナリスト。元西日本新聞記者)

馬場周一郎=文
幸尾螢水=イラスト

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