世は万華鏡

世は万華鏡 (78)ときめいて生きていきたい

ときめいて生きていきたい

「敬老の日」の9月16日から20日までの西日本新聞朝刊に面白い連載が掲載されていた。
 タイトルは、「私」事典~「老春」グラフティ~。ストリップ劇場通いの65歳、66歳のホームレス、89歳のラッパーなどが登場、青春ならぬ老春の「現在地」を活写して、なかなかの読みごたえだった。
 特に私が関心を持ったのは、1回目の「長い人生 ときめきたい」。新たな出会いを求めて婚活する70代男女の理想と現実である。光枝藤夫さん(72)=仮名=は23年前、30代だった妻を亡くした。子どもには恵まれなかった。妻と暮らした市営住宅に今も住む。
 朝、菓子パンを食べてテレビの時代劇を見て、昼食はうどん店やファミレスでワンコイン。また時代劇を見て、夜はスーパーの弁当。結婚相談所を通じてお見合いを申し込むこと15回以上。ほとんどは、会ってさえもらえない“門前払い”。
 松井チサ江さん(73)は、5年前、すし職人だった夫を亡くした。1カ月は落ち込んだが、間もなく気持ちを切り替えた。「旦那は旦那、私は私の人生を生きようってね」
 費用無料の結婚相談所に登録し、婚活を始めたものの、何とも思わない人には好かれるのに、ビビっと来た人との縁は遠い。「ときめき」の瞬間は簡単には訪れない。
 6年前に公開された吉行和子主演の映画「燦燦―さんさん―」。鶴本たゑ(吉行)は介護の末に夫を亡くし、以来、独り暮らしを続けてきた。
 淡々と過ぎゆく日々の中で「ときめいて生きていきたい」と奮起、家族や幼馴染みに反対されながらも、自分の意志を貫き77歳で婚活を始め、生きる喜びに目覚めるー。「人生は毎日がスタートライン」と言う、たゑに共感の声がたくさん寄せられた、という。
 話は代わって遠い昔のこと。AさんとBさんは会社の同僚で、家族ぐるみの付き合いがあった。ところが、両家を悲劇が襲った。Aさんが亡くなり、Bさんは妻を失った。
 悲しみを癒す時間が過ぎた後、Aさんの妻とBさんが結ばれたのだ。この話を耳にしたとき、私は「男と女が夫と妻になる」この世の妙に感じ入ったものだった。
 青春の恋が灼熱なら、老春のそれは穏やかな初冬に似ている。晩年の男と女が出会うことは、人生のラストステージの雲間からのぞいたひとときの弱い陽ざしかもしれない。しかし、それは温かく、たとえ短かかったとしても、温もりを受けた人はそれだけで深い幸福感を得るに違いない。

 (ジャーナリスト。元西日本新聞記者)

馬場周一郎=文
幸尾螢水=イラスト

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